「WordPressのやさしい教科書。」は、作る人じゃなくて使う人のための本

本記事は著者より献本をうけて執筆した記事です。

2018年末に「ブロックエディタ」を導入し、大きく様変わりしたWordPress。
WordPressの関連書籍は数多く出版されていますが、「ブロックエディタ」に対応しているものはまだまだ少ない状況です。
そんな中、ブロックエディタに対応し初心者向けの書籍が出ましたので紹介させていただきます。


著者:竹下和人、額賀順子、占部紘、シマキョウスケ

作る人ではなく、使う人のための本

「WordPressのやさしい教科書。」は、WordPressに初めて触れる方や最新バージョンについて学びたい方に向けて書かれた本ですが、WordPressでウェブサイトを作りたい人ではなく、ウェブサイトを作るためにWordPressを選択した人のための本です。

  • 自分のお店や会社のウェブサイトを持ちたい
  • WixやJimdoのようなWebサービスではなく、オリジナリティのあるウェブサイトがほしい
    あるいは、自由度があり拡張性のあるサイトを作りたい。
  • でも、HTMLやCSS、ましてやJavaScriptやPHPなどは学びたくない

学びたくないというのは消極的な意味ではなく、ウェブサイトはあくまで本業のための「手段」であって「目的」ではありませんから、当然の考え方だと私は考えています。

WordPressをホームページ作成ソフト(かつてのホームページビルダーなど)のように扱った本

この本の大きな特徴は、ソースコードがほとんど出てこないところです。
HTMLが出てくるのは、GoogleマップのためにHTMLコードをコピペするという箇所くらいで、ここでもHTMLを理解する必要はありません。

見た目を変えるためには「テーマ」を変える。
機能の追加は「プラグイン」を使う。
カスタマイズは「カスタマイザー」「ウィジェット」のみ。
追加CSSも概要が書かれているだけ、子テーマについては『そういう方法もあるよ』程度の記述にとどめられています。

カスタム投稿タイプやカスタムフィールドについての記述はありません。
著者の方々はWordPressによるウェブサイト制作やテーマ開発・プラグイン開発に精通されている方々ばかりですから、このような思い切った構成をとられたことに少々驚きました。
しかし、対象読者を考えればこの判断は適切だと思います。

カスタマイズ方法を絞っていることで、万が一ミスをしてもページが表示されないなど致命的な問題が起きる可能性が低くなります。
機能追加の方法をプラグインに絞っているので、問題が起きてもプラグインを削除することで復旧できます。
さらに、テーマやプラグインの探し方に正しい指針が示されていて、不適切なテーマやプラグインによってシステムが肥大化したり不具合を起こすリスクを減らしています。

初心者の方がやりがちな、あちこちで広告を見かける某有名有料テーマ(実はライセンス違反)を入れてしまったり、個人ブログで紹介されているが更新が止まっていて不具合が起きるプラグインなどを入れてしまう失敗が少なくなります。

運用マニュアルとして使える本

私の仕事は、お客様のウェブサイトをお客様に代わって作成する(WordPressをサーバーにインストールし、お客様の希望に合った機能やデザインを持ったサイトを作成してお渡しする)ことです。
お渡しした後は、技術的なサポートはこちらが行うこともありますが、記事の投稿などの運用はお客様が行います。

ここで問題になるのは、導入教育です。
WordPressでの記事投稿は専門知識がなくてもできますが、さすがに見ればわかるようなものではありません。
そのため、運用に入る前に使用方法をレクチャーし、マニュアルを作成することが必要になります。

また、管理画面での操作において、うっかりミスでトラブルになることが結構多いです。
だからと言って、『ここはさわるな』とか、禁止事項や注意事項がたくさんあると、お客様は怖くて運用に二の足を踏むようになります。

そのため私たち制作者は、多少操作ミスがあっても致命的な問題にならないような対策(権限設定や不要な項目の非表示)を講じます。
これは意外に手間がかかります。
またアップデートの際に仕様変更になり、対策をやり直さなければならないこともあります。

投稿画面の操作説明や、実際にどうやって投稿を行えばよいのかを説明するのも、お客様のリテラシーによってはかなり大変です。

そのようなお客様に対し、この書籍がマニュアル代わりになるのではないかと思います。

私がマニュアル代わりになると感じたポイント

新しい投稿エディター「Gutenberg」についてわかりやすく書かれている

Wordライクなクラシックエディタと違って、ブロックエディタはOfficeのユーザーには教えにくいエディタです。
でも実際には、触っていればすぐに慣れて使えるようになる優れたエディタです。
その最初のハードルを下げるために、この本は非常に役に立ちます。

管理画面の各メニューの意味が解説されている

触ってほしくないところを隠すのも良いのですが、お客様に主体的に運用してほしいのであれば、各メニューの意味を把握していただいたうえで、普段の運用は「投稿者」、カスタマイズ時は「管理者」といった適切な権限のユーザーで運用していただくほうが納得し安心していただけます。

ロゴ、メイン画像、会社概要、お問い合わせ、マップなど、ウェブサイトの基本要素の更新方法が書かれている

サイト公開後、ウェブサイトの内容を少し変える必要が出てくることは多いものです。
そんなときに、システムを壊すリスクなくお客様自身が修正することができると、お客さまが安心されます。
また制作側のメリットとして、見積もり時にそういう仕組みだとお客様にわかってもらえると、構築費用が多少高くなっても納得していただけることもあります。

運用のコツ には少し残念なところも

最初に書いた通り、この本は作る人ではなく使う人のための本です。
そのため、サイト公開後の運用について「WordPressの運用のコツ」という一つの章を割いて書かれています。

セキュリティ対策は、重要性を説きながらも対象読者にとって出来る範囲のことが適切に書かれており、大変良いです。
まずレンタルサーバーで対策をして、それを補う形でWordPressでも対策をするという考え方は適切だと思います。

残念なのはバックアップについてです。
phpMyAdminとFTPによる手段が紹介されていましたが、私の経験上、phpMyAdmonもFTPも失敗することが多く、時間もかかります。
セキュリティ対策と同様、レンタルサーバーのバックアップ機能による方法も紹介してほしかったです。
バックアッププラグインについては、VaultPress、BackWPup、UpdraftPlus WordPress Backup Plugin を紹介しても良かったのではないかと思います。

WordPressと付き合っていくために、とても重要なことが書かれている本

この書籍で私がもっとも良いと思ったのは、「参考になるサイトの紹介」の項にある「見つけた情報が正しいか見極める」というコラムです。

「WordPressのコアやプラグインのファイルの一部を直接編集すること」や、「WordPressのバージョンアップを止める方法」などはバッドハックと言えるでしょう

たどり着いた記事だけではなく、その人が普段どのような情報を発信しているのかも併せてチェックするとよいでしょう

「見つけた情報が正しいか見極める」ー WordPressの優しい教科書。

これはつまり「WordPressについて理解しないで上っ面で適当なことを言ってる人を見破る方法」なのです。

私も機会があるごとに言っていることなのですが、WordPressについて書かれたブログ記事には、不適切な内容のものや古くなって適切でなくなったものが非常に多く、またアクセス数稼ぎのために記事の内容を吟味せずに(そもそも吟味する技術力が無い)適当に転載しているものも多いため、正しい内容の記事よりも間違った内容の記事のほうが数が多く、検索上位になることもあります。
(例えば、WordPressのサーバー移転方法の記事などは間違ったものがとても多く、中級者の方でも間違った認識の方がおられます)

この部分はとても小さなコラムなのですが、もっと大きく扱っていただきたかったです。

他にも、WordPressのライセンスである「GPL」についてや、オープンソースとは何なのか、情報収集を続ける理由と方法についてなど、これからWordPressと付き合っていくために知っておくべきことが書かれています。
ウェブサイト制作をする人だけでなく、ウェブサイトを運用する人がこういったことを理解してWordPressを使い続けてもらえるようになるのは、とても有意義なことだと思います。


「WordPressのやさしい教科書。」は、ボリュームのわりにとても読みやすかったです。
対象読者を意識して内容を絞って書かれた点も、大変良いと感じました。

良い本を作っていただいた著者の方々と関係者の方々に感謝いたします。

今後、私がお客様のウェブサイトをWordPressで構築したときは、この本をマニュアル代わりに渡していこうかなと考えています。
そのためにも、今後WordPressのアップデートが行われた際には改訂版を出していただけたら嬉しいです。

この記事を書いた人

川井 昌彦
川井 昌彦
FAシステムメーカー、国内最大手印刷会社製版部、印刷・ウェブ制作会社を経て、家庭の事情で実家に帰省して独立
現在はフリーランスと制作会社シニアディレクターのマルチワーク
ウェブ制作のほぼ全般を見渡せるディレクター業務が主だが、デザイン・コーディングも好き

1997年ブログ開設
WordPressコミュニティには2011年から参加
WordCamp Kansai 2016 セッションスピーカー
WordCamp Tokyo 2023 パネルディスカッションパネラー
WordBench京都、WordBench神戸、WordPress Meetup八王子など登壇多数

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