舞鶴が「maiduru」じゃない理由

私が住んでいる京都府舞鶴市は、ローマ字表記で「MAIZURU」と表記します。
これに私はずっと疑問を持っていました。

だって、パソコンでローマ字入力で変換するとき、「maizuru」では「まいずる」となって、「舞鶴」に変換できないのです。
「舞鶴」はひらがな表記で「まいづる」なので、「maiduru」と打たなければなりません。

また、「つる」に濁点が付いて「づる」になっているわけですから、「ざじずぜぞ」の系列ではなく、「だじづでど」のほうで表記するほうが正しいのではないか? と考えていました。

で、ぼそっとツイートして見たところ、何人かの方から反応がありました。
ただ、『「MAIZURU」で正しい、「MAIDURU」は変でしょう?』 と言われただけでは納得ができません。
だって、パソコンのローマ字入力では「MAIDURU」が正しいわけですから。

そのなかで、『「沼津」も、「NUMAZU」ですよ』という返信をくれた方がいらっしゃいました。
そういえば、「宝塚」も「takarazuka」だし、「会津」も「aizu」です。
これはもしかすると、何か大きな問題があるのではないかと思って調べてみました。

調べるのは意外に簡単でした。

「ず づ ローマ字」

でググれば、同じように悩んでいる方がたくさん見つかります。

なぜ悩むのか?
それは、ローマ字自体が未だに混乱しているから・・・みたいなのです。

ローマ字には、いろんな表記があることをご存知の方も多いと思います。
よく知られているものには、ヘボン式、日本式、訓令式 などがあります。(もっとたくさんあります)

例えば、「だぢづでど」はどう表記するのかというと、

  • ヘボン式 → da ji zu de do
  • 日本式 → da di du de do
  • 訓令式 → da zi zu de do

(参考)ローマ字のヘボン式、日本式、訓令式の主な違い

なんと、「づ」の表記は2通り、「ぢ」にいたっては3通りの表記があります。

なぜこんなことになっているのか?
それは、ローマ字の使用目的がはっきりしていないから。
逆に言えば、上に述べた3方式は、それぞれ目的が違うということらしいのです。

まず、ヘボン式。
これは、英語読みにしたときに正しく発音されることを目的にしています。
「づ」も「ず」も、「zu」と表記します。発音上、両方ともこれが一番近いからです。
パスポートにはこの表記法を拡張した外務省式を使うことになっています。

日本式は、50音表記に基づいて、母音と子音を結びつけた表記です。
「づ」は「du」、「ず」は「zu」と表記します。
50音の成り立ちを説明するのに役立つため、小学校で教えられることもあります。
 パソコンのローマ字入力では、「づ」と「ず」を区別する必要があるため、この方式になっていると思われます。

訓令式は、この中間を取って、内閣告示として定められたもののようですが、どっちつかずな感じを受けます。

WIkipedia – ローマ字

現在、日本でもっとも用いられているのは「ヘボン式」です。
これは、日本語が読めない外国人に地名や人名などを正しく読ませるために、ローマ字が使われることが多いからです。

しかし私は、日本人としてヘボン式に違和感を覚えることがあります。
例えば女性の名前で、「美月(みづき)」さんは、ヘボン式表記で「mizuki」となるのですが、これでは「みずき」と同じになってしまい、「美しい月(つき)」という意味が失われてしまう。
これはちょっと寂しいのではないか・・・ そんな風に思ってしまうのです。

これについては、ローマ字は日本語が読めない人に発音させるための代替表記なのだという割り切りが必要なのだと思います。
だって、日本語の意味を大事にして「miduki」と表記したところで、「みでゅき」と読まれてしまっては意味以前の問題です。
意味を伝えたいなら、中途半端にローマ字を使わず、漢字とひらがなで説明すればいいわけです。

どうしてもというなら、「づ」を「dzu」とする表記もあるようです。
ノーベル賞の田中耕一さんがおられる「島津製作所」は、「shimadzu」と表記します。
正しいかどうかというと微妙ですが、意味も伝えて発音も伝えるならこれしかないですね。

この話、調べていくとかなり奥が深いです。

日本でもずっと昔は、「づ」と「ず」を区別していたが、江戸時代にはすでに発音が変わってしまって、「づ」も「ず」も同じ発音になってしまっていた、という話。
「し」を、「si」ではなく「shi」と表記するのは、日本人の「し」の発音が「si」より「shi」に近い(「さすせそ」と「し」の発音が違っている)からで、英語圏の人は「si」と「shi」の違いが聞き分けられるという話。
日本人は「じゃじゅじょ」が発音できず、「ぢゃぢゅぢょ」になってしまうので、フランス語の挨拶「ボンジュール」が発音できないという話など。
(参考) 1.五十音図の不整合

きりがないので深入りはやめておきますが、とりあえず、「舞鶴」は「maizuru」という表記で正解
パソコンのローマ字入力で「maiduru」と打たなければいけないのは、メーカーの手抜きということかな。

そして、日本語入力ソフトを開発しているメーカーには、こう言いたいです。

「記者が汽車で帰社する」は正しく変換できるくせに、「kyoutofumaizurushi」と入力したら、「京都府舞ずるし」となるのは手抜きでしょ?
「京都府舞鶴市」と変換するようにしなさい!

この記事を書いた人

川井 昌彦
川井 昌彦
FAシステムメーカー、国内最大手印刷会社製版部、印刷・ウェブ制作会社を経て、家庭の事情で実家に帰省して独立
現在はフリーランスと制作会社シニアディレクターのマルチワーク
ウェブ制作のほぼ全般を見渡せるディレクター業務が主だが、デザイン・コーディングも好き

1997年ブログ開設
WordPressコミュニティには2011年から参加
WordCamp Kansai 2016 セッションスピーカー
WordCamp Tokyo 2023 パネルディスカッションパネラー
WordBench京都、WordBench神戸、WordPress Meetup八王子など登壇多数

“舞鶴が「maiduru」じゃない理由” への4件のフィードバック

  1. この問題、メルマガ「頂門の一針」の昨年1月16日號で書いたので御一讀いただけるとさいはひです。URL は
    http://melma.com/backnumber_108241_5962727/
    2月11日號の讀者の聲欄に擴張ヘボン式への設定方法を書いたけれど、定義ファイルの作り方がメールでは面倒。御希望の向きはお送りします
    なほ、昨年12月16日號のテトラグラマトンと題する小文も讀んでほしい

  2. さくらぎけいのアバター
    さくらぎけい

    4年も前の記事にコメントいただいてありがとうございます。
    私をはじめ多くの人は、ローマ字と英語は別物だと認識していると思いますが、ごっちゃにしてしまうと英語教育の妨げになりますね。
    最近は、いわゆるローマ字表記ではなく、日本語の発音に近い英語表記を用いる風潮があります(佐藤を satoh とするとか)ので、それがもっと普及するといいと思います。

  3. 通りすがりの者のアバター
    通りすがりの者

    失礼します。わたしも,ちょうど同じものを検索していまして,ここにたどり着きました。なかなか興味深い内容で読み入ってしまいました笑 メーカーの手抜き・・・本当にそう思います!

    1. 川井 昌彦のアバター
      川井 昌彦

      昔の記事にコメントありがとうございます。
      実は今では「maizuru」で「舞鶴」と変換してくれるようになってるみたいです。
      メーカーさん頑張ってますよwww

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