地方の多言語ウェブサイトの呆れた実態について

ここ数年、日本では外国人観光客の数がとても多くなっています。

私の住んでいる京都府舞鶴市は、京都市に近いこともあり、地域活性化のために観光にも力を入れているようです。
そのためか、行政関係のウェブサイト制作案件でも「多言語化」はほぼ必須の要件となっています。

ただ、行政主導で作られている多言語ウェブサイトがあまりにも酷すぎて「これなら多言語化しないほうがマシ」と思うくらいの惨状なので、市民としては大変恥ずかしいのですが指摘させていただきたいと思います。

ちょっと酷いと思う公的なサイトたち

舞鶴引揚記念館

https://m-hikiage-museum.jp/

舞鶴引揚記念館は、2015年にユネスコ世界記憶遺産に認定された『舞鶴への生還 1945-1956シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録』を所蔵しており、舞鶴市が特に力を入れている観光施設です。

そんな観光施設のウェブサイトですが、多言語化にはGoogle自動翻訳を使用しています。

では、外国人観光客の方が良く利用されると思われる「アクセス」のページを見てみましょう。

舞鶴市 引揚記念館 アクセスマップ
https://m-hikiage-museum.jp/access.html

大きく見やすく作られたアクセス方法の図は日本語のみです。
その下にはテキストでアクセス方法が示されており、最寄の東舞鶴駅からのバスの時刻表が掲載されています。

問題はここです。

まず、日本語はこちら。

引用:舞鶴市 引揚記念館 アクセスマップ https://m-hikiage-museum.jp/access.html

これをヘッダー部分にある言語切り替えで英語にしてみると・・・

引用:舞鶴市 引揚記念館 アクセスマップ https://m-hikiage-museum.jp/access.html

注目は「田井・野原行」です。
「野原」は海水浴場がある地域で、読み方は「たい・のはらゆき」。
英語表記なら「Tai – Nohara」となるはずなのですが「Tai-field」になってますね。
地名であるはずの野原が、普通名詞と思われて「field」と訳されています。

自動翻訳ですからこんなこともあるかなとは思っていましたが、私が予想外だったのは中国語です。

引用:舞鶴市 引揚記念館 アクセスマップ https://m-hikiage-museum.jp/access.html

「田井・野原行」が「大場線」と訳されています。

漢字で書いてあるんだからそのまま訳せばいいように思うのですが、なぜこんなことになっているんでしょうか?

私の想像ですが、中国語への翻訳は英語がベースになっているのではないかと思われます。
つまり英語で「Tai – field」と訳されたため、「Tai → 大」「field → 場」になったのではないかと考えられます。

これじゃあ、まるで伝言ゲームです。

はたして、中国の方は東舞鶴駅からバスに乗ることができるのでしょうか?

この野原じゃない・・・

他にツッコミどころとしては、「引揚記念館着」「Repatriation Memorial wear」になっているところ。
着がwearになってるんですね(笑)(到着の意味だから arrival になるはず)

また、グローバルメニューの「当館へようこそ」「Welcome to Hotel」と訳されています。
引揚記念館は宿泊施設ではないのですが。

Google自動翻訳は、最近とても精度が上がってきています。
しかしながら、あまり有名でない地名や人名などの固有名詞は正しく翻訳することができません。

にもかかわらず、Google自動翻訳を過信しているサイトが多すぎます。
ここ舞鶴市において、そのような認識が広まった原因の一つがこちらではないかと思います。

舞鶴商工会議所

http://www.maizuru.or.jp/

ドメインを見ていただければお分かりのとおり、非常に歴史のあるサイトです。
舞鶴市にある主なウェブサイトはこちらに所属している制作会社が作られているのではないかと思われるのですが・・・
やはり多言語化にはGoogle自動翻訳のみを使用しています。

そういうサイトがあると、ついつい見てしまうのが「住所」ですよね。
フッターにある住所を見てみましょう。

引用:舞鶴商工会議所 http://www.maizuru.or.jp/

英語に切り替えると・・・

引用:舞鶴商工会議所 http://www.maizuru.or.jp/

「字浜」は「あざはま」と読みます。
英語表記なら「Aza Hama」です。
ところが「shaped beach」と訳されています(笑)

いや、笑い事じゃないんですけどね。

他にもこういった例はいくらでもあります。
なんと市の代表でもある「舞鶴市役所」も同じなんです。

舞鶴市役所

https://www.city.maizuru.kyoto.jp/

もう、いちいち実例は挙げません。キリがないです。

これって、誰が悪いのか?

では、これって誰が悪いのでしょうか?
作った制作会社でしょうか?

確かに制作会社にも一端の責任はあると思います。
ただ、最近の舞鶴市やその外郭団体の入札時の仕様書では、ほとんどの案件で「多言語化に自動翻訳を使用する」と指定されています。
そのような仕様書を見て、入札する側はあえてGoogle自動翻訳以外の方法で多言語化の提案をするでしょうか?
後述しますが、Google自動翻訳以外の方法で精度の高い多言語化を実現しようと思うと費用がかなり大きくなります。
当然、入札に不利になりますよね。

最も悪いのは、発注元の担当者(もしくはその上司)です。
つまりは、舞鶴市の担当職員が悪いのです。
中学生でもわかる誤訳に公務員試験を突破している市職員が気づかないはずはありません。
つまり、なにもチェックしていない、要は仕事をしていないということです。

もしかしたら「自動翻訳のクォリティはこんなものだから仕方がない」と思っているかもしれません。
だとしたら、これで放置するのではなく、正しく情報を伝えるために自動翻訳以外の方法を考えるべきではないでしょうか?

ここで思考停止しているのは、怠慢以外の何物でもないと思います。

一般企業ならそれでも良いのですが、彼らは市民の税金を使って制作をしているのです。市民は声を上げるべきです。

もう少し言わせてもらうなら、こんなひどい制作をしてお金をもらっている制作業者がいることは、同業者として情けないです。

比較的まともな多言語化サイトもあります

京都舞鶴港

http://www.port.maizuru.kyoto.jp/

英語や日本語に切り替えてみてください。
固有名詞に誤訳がほとんど無く、非常に精度の良い翻訳がされています。

こちらは有料の自動翻訳サービスを使用しています。

Myサイト翻訳 | 中国語・韓国語翻訳・音声合成なら高電社 https://www.kodensha.jp/index/products/mysite/

京都舞鶴港はこちらのサイトの「導入実績ーその他」ページに掲載されています。

Myサイト翻訳は全国114の自治体サイトに使用されているそうです。
ユーザー辞書が持てるので、地元の地名や人名などの誤訳を防ぐことができます。
費用は年額360,000円月額換算で30,000円です。

ちなみに京都舞鶴港は、舞鶴市ではなく京都府の管轄です。

舞鶴港 とれとれセンター

https://toretore.org/

こちらのサイトでは、施設紹介やアクセスなどの固定ページは翻訳者が翻訳を行い、ブログはあえて翻訳をしないという選択をしています。
海外からの旅行者であれば、ウェブサイトの翻訳くらい自力で出来ますしね。

京都・大阪の代表的な観光サイトは自動翻訳を使用していません。
清水寺、伏見稲荷大社、二条城、龍安寺、ユニバーサルスタジオジャパン、海遊館などは、翻訳者による翻訳を使用した多言語サイトになっています。

正しく情報を伝えようという姿勢があれば、おのずとこのような選択になると思います。

ブログも含めた多言語化の実現方法は?

本来ならば各言語ごとに翻訳者がきちんと翻訳すべきなのですが、「お知らせ」や「スタッフブログ」など日々の情報発信について、いちいち翻訳者に翻訳を頼めないという事情もあります。(時間的な制約、費用的な制約)

私も実のことを言うと、こういった案件についての確かな解決方法を持っているわけではありません。
そこで、下記のような提案をしてみたいと思います。

自動翻訳と手動翻訳のハイブリッド構成

通常のページは翻訳者による手動翻訳とし、お知らせやブログなど日々更新されるページだけにGoogle自動翻訳を導入するという方法です。
いわば「ハイブリッド方式」です。

手動翻訳されたページ全体、あるいは一部分でGoogle自動翻訳を無効にする方法がありますので、これで表示をコントロールします。

  • metaタグでページの自動翻訳を無効にする
<meta name="google" content="notranslate" />
  • メニュー、奥付など部分的に自動翻訳を無効にする
<p translate="no">

なお、Google自動翻訳はJavaScriptというユーザーのブラウザ上で動くプログラムで、WordPressはPHPというサーバーで動くプログラムです。
そのため、自動翻訳ページから手動翻訳ページに移動する際に、表示中の言語を引き継ぐのが難しくなります。
ブラウザ上の情報をサーバープログラムが受け取ることは、セキュリティ上ユーザーのアクションなしには出来ないからです。
これについては、cookieを使って現在表示されている言語の情報を受け渡すことで対応できるのではないかと考えています。
(実際にやったわけではないので、コメントなどいただけると嬉しいです)

地方のウェブリテラシーは大丈夫か?

この記事では公的機関ウェブサイトの多言語化について取り上げましたが、知識が無いのかやる気が無いのか、他にもひどい実態はいくらでもあります。

舞鶴市にも正しい知識を持ったウェブ制作者は、ごく少数ですが存在しています。
しかし、残念ながらそういったところには話が来ず、専門性の低い業者が請け負って恥ずかしいサイトが多くつくられ、それが当たり前と受け取られているというのが実情です。

私は、市役所や引揚記念館に対しては問い合わせフォームから実名で提案をしたりしているのですが、無視されています。
(おかしいのは知っているけど、大きな問題になっていないから放置しているという話も聞きます)

しかし、そんなことでいいのでしょうか?
税金を使って怠慢仕事をする市職員には腹が立ちますし、こういったことに気づかない市民のリテラシーの低さには情けなくなります。

ったく・・・

「ボーっと生きてんじゃねーよ!」

この記事を書いた人

川井 昌彦
川井 昌彦
FAシステムメーカー、国内最大手印刷会社製版部、印刷・ウェブ制作会社を経て、家庭の事情で実家に帰省して独立
現在はフリーランスと制作会社シニアディレクターのマルチワーク
ウェブ制作のほぼ全般を見渡せるディレクター業務が主だが、デザイン・コーディングも好き

1997年ブログ開設
WordPressコミュニティには2011年から参加
WordCamp Kansai 2016 セッションスピーカー
WordCamp Tokyo 2023 パネルディスカッションパネラー
WordBench京都、WordBench神戸、WordPress Meetup八王子など登壇多数

ご質問・ご相談などありましたら
お気軽にお問い合わせください


“地方の多言語ウェブサイトの呆れた実態について” への2件のフィードバック

  1. hily_grailのアバター
    hily_grail

    良い批判記事だと思います。しかし多言語化に関する記事なのに「arraive」と書いているのは痛い…。

    1. 川井 昌彦のアバター
      川井 昌彦

      ご指摘ありがとうございます。
      arrival に修正しました。お恥ずかしい。

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